ある薄暗い喫茶店でのことだった。外から漏れる街の明かりが、わずかに店内の影を揺らしている。
カウンターには咲良と海斗、二人が向かい合って座っていた。
彼女は目を細めて、彼の言葉に耳を傾けていたが、
海斗の顔に浮かぶ緊張感に気づいて思わず声をかける。
「どうしたの？そんなに怖い顔して…」
絶対に座ってはいけない呪いの椅子
海斗はしばらく沈黙した後、言葉を選ぶように言った。
「聞いたことあるか？この店の奥にある椅子の話…」
咲良は興味をそそられた。「椅子？何があるの？」
「この椅子に座ったら２週間以内に死ぬんだって。実際に何人も犠牲者が出てるらしい。」
俺、そのこと知ってたけど興味本位で２週間前に座っちゃったんだよね。」
海斗は不安げな表情で視線を下に落とした。咲良はその言葉にドキリとした。
周囲の静けさが、まるで彼らの会話を待っているように感じる。
コツコツコツと、誰かの靴音が遠くから響いていた。
着実に近づく恐怖の足音・・・
「でも、そんなのただの噂じゃない？」咲良はそう言いながらも、心の奥に潜む恐怖を感じていた。
海斗は苦笑し、「俺もそうあって欲しいよ。でも実際にこの椅子に座った人の話は妙にリアルなんだ」
と怯えた表情で話した。
その瞬間、店内の空気が変わった。コツコツコツと、足音が近づいてくる。
咲良は振り返り椅子の方を見つめた。だがそこには誰もいない。しかし不気味な気配が漂っていた。
咲良の心臓は早鐘のように打ち始めた。「ねえ、さっきの、なんなの…？」
海斗は顔を青ざめさせ、「あの椅子、なんか変だよ。座った人たちが、
最後の瞬間に何を見たか…それが、恐ろしいんだ。」
その言葉に咲良は恐怖を感じ、目を大きく見開いた。
座ったものは死者の顔に変化していく
「どういうこと？」咲良は身を乗り出す。海斗は小声で続ける。
「ある人は、その椅子に座った人の顔が次々と変わっていくのを見たんだって。まるで、死者の顔に…」
コツコツコツ、また足音が響いた。今度は確実に店内の隅から来ている。
咲良は身動きが取れず、ただ耳を澄ませる。足音は近づき、恐怖が咲良の心を締め付ける。
「やだ…やだ、もう行こうよ。」咲良は立ち上がろうとしたが、海斗は咲良の腕を掴んで止めた。
「待って、聞いてほしい。椅子に座ったら、最初は何も感じない。
でも時間が経つにつれ、背筋が凍るような感覚が襲ってきて、最後には…」
その瞬間、コツコツコツと足音が、彼らのすぐ目の前で止まった。
咲良が振り向くと、またもやそこには誰もいなかった。
だが椅子の背もたれには、冷たい汗が滴っているように見えた。
「これ、なんなの…？」咲良は恐怖と混乱に震えながら呟いた。
椅子の上に置かれた小さなメモ
海斗はその光景を見つめつぶやいた。「これはただの椅子じゃない。座った瞬間に、全てが終わる。
あの椅子は、誰も生きて帰れなくなる呪いの椅子なんだ。」
咲良は息を飲み恐怖のあまり涙が溢れそうになった。
その時、咲良の目に椅子の上に置かれた小さなメモが映った。
「座るな。命が奪われる。」その文字が目に焼き付いて離れない。咲良は身震いし後ずさりした。
だが、海斗はもう一度椅子を見つめ言った。「俺、やっぱり死んじゃうのかな…」
咲良はその言葉の意味を理解した時、海斗の顔が急に歪んだように見えた。
椅子に座ってしまった者の悲劇的な末路
「いや、やっぱり行こう。もう帰る。」咲良は立ち上がり、急いで出口に向かった。
だが背後からコツコツコツと、明確に響く足音が咲良を止めた。
「ちょっと待って！」海斗の声が響く。その瞬間、咲良は振り返った。
海斗の目は驚きと恐怖に満ち、口を開けたまま凍りついている。
椅子の背後に何かが立っている。黒い影が咲良の方をじっと見つめていた。
咲良はその瞬間、全身が硬直し、ただ逃げ出すことしか考えられなかった。
逃げ出そうとしたその時、咲良は耳元で囁く声を聞いた。
「あなたも、ここに座る？」
咲良はその声に背筋が凍り、恐怖のあまり涙が溢れ出した。
咲良が振り返ると、海斗の姿ははもうそこになかった。
椅子の上にはただ冷たい空気が漂い、周囲は静まり返っていた。
その後、その喫茶店には誰も来なくなった。
椅子は静かに、待ち続けている。次の犠牲者を…。
